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小説東雲草9 親密になったヒロシと田鶴 ― 対島の空と海、そして出会いと…



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出会いがあれば…
バス停にたどり着いた二人の向う方角は正反対だった。ここで別れることは寂しいような気がする、とヒロシは思う。しかし今日どうしても行きたいところがある。誘うべきかどうしようか、と逡巡するヒロシ。すると決断する前にヒロシが乗るバスが遠くに見えた。さあ どうするヒロシ。


「北行きのバスに乗らない?」と遠慮がちに言ったのは田鶴(たづ)の方だった。

「いや…これから行きたい所があるので」と歯切れのわるいヒロシ。

「そう…」と田鶴。

厳原行きのバスに一人で乗るヒロシの顔色が冴えない。


厳原の町に一旦戻り、昼食をすませ今日登る予定の白岳方面へ行くバスを待つヒロシ。
白岳登山口でバスを降り、白岳へ登る。道は広く勾配は緩やかで歩きやすかった。頂上への道すがら、渓流を眼下に望み、見晴らしの良い場所に出ては遠くの山々や集落を気持ちよく眺めるのだった。樹上では名も知らぬ小鳥が囀っていた。脳みそが単細胞なヒロシは抱えていた悩みを忘れたのか、はやくも歌を口ずさんでいた。

白岳の頂上からは浅茅湾が一望でき、湾の彼方には上島の山々が連なっているのが見えた。しかし、なぜか昨日田鶴と二人で眺めた浅茅湾ほどの感動は覚えなかった。ヒロシは少し休んだあと、来た道と違う道を通って山を下りた。道々、さっき別れた田鶴の寂しげな横顔が思い出され、ある思いが潮のように満ちては引くのが感じられるのだった。

ヒロシは疲れた身体でホテルに戻った。ロビーで田鶴の姿を探したがどこにも見えなかった。部屋にいるのだろう、と思いながら大浴場でひと汗流し、湯に浸かりながら今日一日の出来事を振返る。思い浮かべるのは、景色より田鶴の顔ばかりである。どうしたヒロシ?

夕食時になっても食堂には田鶴の姿はなかった。ヒロシは部屋で一時間ほど本を読み、今度こそ(?)はと思いロビーに向った。そこに探していた田鶴の姿があった、水色のワンピースに着替えて一人でテレビを見ていたのだった。ヒロシは声をかけた。


「遅かったんだね?」

「うん、帰りのバスがなかなか来ないんだもの」という田鶴のヒロシを見る眼が光る(ホンマに?)

「で、最果ての北の集落はどうだった?」

「つまらなかったわ」と田鶴はうつむき加減に言った。「だって何もないんだもの。陶磁器のかけらでも海岸で見つかるかと思ったけど、砂浜に流れ着いたゴミと海藻の切れ端ばかりなんだもの」

「それは残念だったね、ぼくの登った白岳はよかったよ。道のわきを流れる渓の冷たい水で足を冷やしたり、沢ガ二を捕まえたりしたよ。白岳の中腹から眺めた海と山のコントラストがきれいだったなぁ。田鶴さんに見せてあげたかったなあ…。でも頂上から眺める浅茅湾の景色は昨日ほどの感激はなかったけど。」ひと息つきながら田鶴の顔を見て「しかし、彼岸だと言うのに今日は暑かったね、鼻の頭が真っ赤に日焼けしちゃったよ」

ヒロシと田鶴は顔を見あわせて笑った。

「わたしも白岳に登ればよかったわ、明日登ろうかしら…」

「登ってみたら、道は教えてあげるよ」

二人は、時にはテレビに眼をやりながら(テレビの内容などは頭になかった?)談笑するのだった。楽しい語らいは時の経つのを早く感じさせる、「消灯時間です」と言って、ホテルの係員がロビーの灯りを消し始めた。せっかく興に乗っているのに、ここで話を終えるのは至極残念な思いがする、ヒロシはアルコールの勢いもあってか、珍しく積極的になっていたみたいで…。

「…よかったら僕の部屋で話の続きをしませんか? 下心はありませんし^^;」

「(あら、下心が無いなんて)」と田鶴が思ったかどうか知らんけど…「そうね」と田鶴はうなづく。

ヒロシは自動販売機から缶ビールを二本買って部屋に戻る。少したってから田鶴がドアをノックして部屋に入って来た。その手には菓子を持っていた。眼には警戒心はなさそうである。一両日の行動から見るにヒロシを無害な男(男は豹変するで!)と判断したようである。

二人は座卓に向い合ってすわり、ヒロシは缶ビールを湯飲み茶わんに注いで田鶴にすすめる。どうやら田鶴も飲めない口ではなさそうだ。湯飲み茶わんをカチンと合わせ乾杯の儀式。田鶴の眼が相手の様子をうかがうように光る(ようにヒロシは感じた?)。

「なんだか田鶴さんとは ずっと前からの知り合いのような気がするよ」

「そう?」と田鶴は微笑む。

「さっき、音楽が好きだって言ってたね?」

「うん」

「どんな音楽が好きなの?」

「そうね、クラシック曲も好きだし、ジャズなんかも聴くわ」

「そうなんだ僕もクラシックは聴くよ、ミーハーだけどベートーベンのピアノソナタが好きなんだ」グイッと湯飲み茶わんのビールをひと息にに飲むヒロシ。「ジャズってどこがいいの? 僕が聴いてもいいと思わないんだけど」

「楽しいじゃない、ジャズって。それでいてちょっぴりハートを揺さぶるじゃない? なんていうか…悲しみを奥に仕舞い込んでいるような…」

「ふーん」と分ったような顔をするヒロシ。だいぶ酔いがまわったのか顔が赤いぞ!


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写真はイメージ(?)




静かな夜だった。開け放たれた部屋の窓からは遠く暗い海が見える。虫の鳴き声と潮騒だけが止むことなくつづいていた。

「ねえ…本当に明日帰るの?」と田鶴が尋ねる。

「うん」

「もう一日だけ、お休み取れないの?」そして誘うように「明日はいっしょに壱岐へ行きたいなぁ?」

田鶴が何を言わんとしているか、鈍感なヒロシにも伝わってきた。だけど出かかった言葉を押し殺すヒロシ。何を脳裏に浮べたか優柔不断なヒロシ(どうしたの?)。

そのあとから田鶴の口数がめっきり少なくなった。ヒロシが話しかけているとき、田鶴の顔色がかわるのがヒロシは気づいた。

「どうしたの?」

田鶴は立上がって窓に寄り、暗い海を眺めるのだった。ヒロシも立ち上がって窓に寄り、後ろから田鶴の両肩に手を添える。空には星がきらめき、沖合にはいくつもの漁火が光っているのが見えた。田鶴の身体からは香水の匂いが立ち昇り、ヒロシの鼻腔をくすぐる。すると田鶴が振り返りざま、「触らないで!」とヒロシの頬に一発強烈なビンタを食らわす、じゃなくってヒロシの身体に抱きついたのだ。

このあとはどうなったか筆者は知らんのだ。ご想像におまかせするとしよう、何せ経験がないもので表現があ(笑)。


眼を覚ましたとき、田鶴の姿はなかった。ヒロシは昨夜のできごと(二度も!)を思い出し、あれは夢であればよいがと思うのだった。だが、胸のあたりから香水の匂いがほのかに漂い、夢では無かったことを思い知らせた。ヒロシは後悔した、しばらくの間 座りこみ立ち上がれなかった。

フロントで清算を済ませたヒロシは田鶴の部屋の前を行き来した。いく度もドアの前に立ち、ドアをノックしようとした…だけどそれが出来なかった。バスの時刻がせまったのでヒロシは逃げるようにホテルを飛び出した。バス停への道すがら、ヒロシはいく度も後ろを振りかえるのだった。

そして船は対馬の厳原港を後にして博多港に向った。もう戻ることはできない、とヒロシは自分にいい聞かせた。だけど今すぐにでも戻りたいとも思うのだった。頭の中をさまざまな考えが駆けめぐるのだった。自分が卑怯な人間に思えた。ヒロシはうす暗い二等船室で毛布を頭からかぶり、すべてを忘れて眠ろうとした。絶え間ない船の揺れとデーゼルエンジンの音が二日酔いのヒロシの頭に応えるのだった。


※第二章これでお終いです。まだまだ続きます(たぶん)。

※久しぶりに「小説東雲草」を再開します。西の方でドンパチ始めたので休止していました。一週間もあれば戦争は終わるだろうと思っていたのですが、当分続きそうなので再開することにしました。原稿は最後まで出来上がっているのですが、気まぐれな私ですから、ストーリーはどんどん変化していくような気がします。つじつまが合わないことが沢山出てくると思います。気にせずに読み飛ばしてください^^;


9月20日は空の日



# by chikusai3 | 2022-09-20 13:15 | 小説東雲草 | Trackback | Comments(0)

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